溶接工の資格の全体像と区分
溶接の資格は、その目的によって大きく「①安全に作業するための資格」、「②公的に認められた管理者・責任者になるための国家資格」、「③自身の技術力を証明するための民間資格」の3つに分けられます。まずは、それぞれの区分と代表的な資格を見ていきましょう。
技能講習・特別教育(初心者向け)
これらは、溶接作業を行う上で、労働安全衛生法によって事業者に実施が義務付けられている安全衛生教育です。言い換えれば、溶接の「技術」を証明するものではなく、「安全に作業を行う許可証のようなものです。未経験から溶接工を目指す場合、まず最初に触れることになる資格区分です。
資格名 | 受験資格 | 取得方法 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
アーク溶接業務に係る特別教育 | 18歳以上 | 学科・実技の特別教育を受講 | 13,000円程度 |
ガス溶接技能講習 | 18歳以上 | 学科・実技の講習を受講し、修了試験に合格 | 13,500円〜20,000円 |
参考:東京技能講習協会
電気を利用する「アーク溶接」や、ガスを利用する「ガス溶接」を行うためには、これらの教育の修了が必須です。多くの場合、会社が入社後の研修で受講させてくれますが、事前に個人で取得しておくと、就職活動で意欲の高さを示すことができます。
国家資格
国家資格は、特定の設備や作業において、法的に定められた責任者や専門家として業務を行うために必要な資格です。取得には実務経験が求められるものが多く、キャリアを積んだ溶接工が目指す一つの目標となります。
資格名 | 受験資格(概要) | 受験方法 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
金属アーク溶接等作業主任者 | 18歳以上 | 技能講習を受講し、修了試験に合格 | 16,500円程度 |
ガス溶接作業主任者 | ガス溶接技能講習修了後、3年以上の実務経験 | 学科試験に合格 | 8,800円 |
ボイラー溶接士(普通) | 1年以上の溶接作業経験 | 学科試験と実技試験に合格 | 32,000円程度 |
「作業主任者」は、現場の安全管理や作業者の指揮を行うリーダーとしての資格です。一方、「ボイラー溶接士」は、圧力のかかるボイラーや第一種圧力容器という、特に高い安全性が求められる設備の溶接を専門に行うための、高度な技術資格です。
民間資格
民間資格は、主に一般社団法人日本溶接協会(JWES)などが認定するもので、溶接工個人の「技術レベル(腕前)」を客観的に証明するために最も広く利用されています。転職やキャリアアップにおいて、自身のスキルをアピールする上で非常に重要な資格群です。
資格名 | 受験資格(概要) | 取得方法 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
溶接技能者(基本級) | 1ヶ月以上の溶接経験、15歳以上 | 学科・実技試験に合格 | 7,000円〜15,000円 |
溶接技能者(専門級) | 3ヶ月以上の溶接経験、対応する基本級の保有 | 学科・実技試験に合格 | 10,000円〜30,000円 |
溶接管理技術者(2級) | 工業高校卒で1年、普通高校卒で4年等の実務経験 | 筆記・口述試験に合格 | 19,800円 |
溶接作業指導者 | 溶接技能者資格を保有し、一定の実務経験 | 筆記・口述試験に合格 | 40,000円〜45,000円 |
引用元:日本溶接協会
「溶接技能者」は、溶接方法や材料ごとに9種類に分かれており、それぞれに基本レベルの「基本級」と、より難しい姿勢での溶接技術を問われる「専門級」があります。現場のプレーヤーとして技術を極めるなら、この資格の取得が必須です。「溶接管理技術者」や「溶接作業指導者」は、現場の品質管理や指導者のための、より上位の資格となります。
工場勤務で役立つ資格全般については、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:工場勤務・製造業で役立つ資格まとめ/キャリアアップに活かせる資格一覧
資格なしでも働けるケース
「こんなに資格があるなら、資格なしでは働けないのでは?」と不安に思うかもしれませんが、そんなことはありません。結論から言うと、未経験・資格なしでも応募可能な求人は数多く存在します。
人手不足が続く製造・建設業界では、ポテンシャルを重視して未経験者を採用し、自社で一から育てるという方針の企業が非常に多いのです。そうした企業では、入社後の研修で「アーク溶接特別教育」など業務に必要な最低限の資格を取得させてくれるのはもちろん、「資格取得支援制度」を設けて、より上位の資格取得にかかる費用を会社が負担してくれる場合も少なくありません。未経験から溶接工を目指す方は、こうした手厚い育成環境が整った企業を選ぶのが、キャリアを成功させるための近道と言えるでしょう。
溶接工の具体的な仕事内容については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事: 溶接工の仕事とは?仕事内容・勤務場所・向いている人を徹底解説
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溶接資格の取得で広がるキャリアパス

資格は、あなたのキャリアの可能性を大きく広げる武器になります。ここでは、資格取得がキャリアや待遇にどう結びつくのかを具体的に解説します。
初心者→中級者→上級者の順序
溶接工のキャリアは、資格取得と共にステップアップしていくのが一般的です。効率的なロードマップの一例をご紹介します。
- ステップ1(初心者):特別教育・技能講習を修了する
まずは、現場で作業を行うための「許可証」である「アーク溶接特別教育」や「ガス溶接技能講習」を修了します。多くは入社後の研修で取得可能です。
- ステップ2(中級者):溶接技能者(JIS検定)の資格を取得する
実務経験を積みながら、自身の技術力を証明する「溶接技能者」の資格(基本級)に挑戦します。これにより、一人前の溶接工として認められ、仕事の幅が広がります。
- ステップ3(上級者):専門級や指導者・管理者資格を目指す
より難易度の高い「専門級」を取得して技術を極めるか、あるいは「溶接作業指導者」や「溶接管理技術者」の資格を取得し、現場のリーダーや管理者としてのキャリアを歩む道を選択します。
資格があるとできる仕事・職種の例
資格は、より専門性が高く、高待遇が期待できる仕事への挑戦権とも言えます。まず、あらゆる製造業や建設業において、「JIS溶接技能者」の資格は、一定の技術力を持つ証明として広く認知されています。
そこからさらに専門性を高めるには、大きく分けて2つの方向性があります。
1.特殊な「材料」を極める:ステンレス鋼やチタンといった、腐食に強い、あるいは軽量で高強度な特殊材料の溶接技能者資格を取得すると、食品工場や化学プラント、航空宇宙産業といった分野で重宝されます。
2.特殊な「環境・構造物」を極める:「ボイラー溶接士」や「石油工業関係溶接技能者」など、特定の設備や環境に特化した資格は、高い専門性と責任が求められる分、非常に高い報酬が期待できます。
自身の適性を見極めながら、こうした技術のスペシャリストを目指すのか、あるいは管理者を目指すのか、キャリアプランを考えていきましょう。
資格取得が給与・待遇に与える影響
資格取得は、年収アップに直結します。企業によっては、特定の資格を持っていることが応募の必須条件になっている求人もあります。また、入社後も、資格を取得することで以下のようなメリットが期待できます。
- 資格手当の支給:月々数千円〜数万円の資格手当が給与に上乗せされます。
- 昇給・昇格の対象:資格を持っていることが、昇給やリーダー職への昇格の評価基準の一つになります。
- より高単価な仕事を担当:難易度の高い資格が必要な仕事を任されることで、基本給や賞与の査定が上がります。
求人票にも、「JIS溶接技能者資格をお持ちの方、優遇(手当あり)」といった記載がよく見られます。あなたの努力が、目に見える形で報われるのです。
溶接工のリアルな年収については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事: 溶接工の年収はどれくらい?稼ぎ方や求人のポイントまで徹底解説
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おすすめの溶接資格ステップと取得のポイント

ここでは、キャリアの段階ごとにおすすめの資格を、より詳しく解説します。
初心者向け資格
「アーク溶接特別教育」と「ガス溶接技能講習」は、溶接工としてのキャリアをスタートさせるための、いわば「入場券」です。これらは、安全に作業を行うための最低限の知識を証明するものであり、これらを修了していなければ、法律上、現場で溶接作業を行うこと自体ができません。
講習内容は、関係法令や溶接設備の構造・取扱方法、点火・消火といった実技が中心となります。2〜3日の講習で取得できるため難易度は高くありませんが、これだけでは溶接の「腕前」を証明することはできない、という点は覚えておきましょう。
中級者向け資格
実務経験を積み、一人前の溶接工としてスキルを証明したいなら「溶接技能者(JIS検定)」の取得が目標になります。この資格は、溶接方法や材料によって、以下のように細かく分類されています。
種類 | 概要 | 用途例 |
|---|---|---|
⼿溶接(アーク溶接等) | 手作業で行う最も基本的なアーク溶接。 | 建築鉄骨、橋梁、産業機械など |
半⾃動溶接 | ワイヤーが自動で送られるトーチを使う、効率的なアーク溶接。 | 自動車、造船、建設機械など |
ステンレス鋼溶接 | 錆びにくく、衛生的なステンレス鋼を溶接する技術。 | 食品・化学プラント、厨房設備など |
チタン溶接 | 軽量で高強度なチタンを、空気に触れさせず特殊な環境で溶接。 | 航空宇宙、医療機器、化学装置など |
プラスチック溶接 | 塩化ビニル管などを、熱を加えて接合する技術。 | 上下水道配管、化学工場の配管など |
銀ろう付 | 精密な接合が可能な、ろう接の一種。 | 電子部品、精密機器、装飾品など |
すみ⾁溶接 | L字やT字に交わる角の部分を埋める、基本的な溶接方法。 | あらゆる構造物の基本的な接合部 |
石油工業関係溶接 | 高圧・高温環境で使われる、石油関連設備の溶接に特化した技術。 | 石油精製プラント、パイプラインなど |
基礎杭溶接 | 建築物の基礎となる杭を、地中で接合する専門技術。 | ビル、マンションなどの基礎工事 |
まずは、自分の職場や目指す業界で最も需要の高い「手溶接」や「半自動溶接」の基本級から挑戦するのが一般的です。
上級者向け資格
現場のプレーヤーとしてだけでなく、管理者や指導者としてのキャリアを目指すなら、「溶接作業指導者」や「溶接管理技術者」が目標となります。「溶接作業指導者」は、現場で溶接技能者への指導や監督を行うための資格です。一方、「溶接管理技術者」は、溶接施工計画の立案や品質管理など、より広範なマネジメント業務を担う、まさに溶接のプロフェッショナルです。
これらの資格を取得することで、あなたは単なる作業者ではなく、現場全体の品質と安全を担う、会社にとって不可欠な人材となります。当然、待遇面でも大幅な向上が期待でき、キャリアの安定性は飛躍的に高まるでしょう。
FAQ:溶接工の資格についてよくある質問

溶接工の資格についてよくいただく質問とその回答をご紹介します。
資格がないと応募できませんか?
いいえ、資格なしでも応募可能な求人は数多くあります。人手不足の業界のため、多くの企業が未経験者を歓迎しています。入社後の研修や「資格取得支援制度」を通じて、働きながら資格を取得できる会社も多いので、まずは挑戦してみることが大切です。
会社に入ってから資格は取れますか?
はい、取れます。むしろ、多くの企業では、入社後に会社の費用負担で業務に必要な資格を取得させるのが一般的です。社員のスキルアップを積極的に支援してくれる会社は、働きがいのある良い会社である可能性が高いと言えるでしょう。
資格取得は、自身の待遇向上だけでなく、将来の転職にも有利に働く大きな資産になります。
資格があると給料は上がりますか?
はい、上がるケースがほとんどです。多くの企業では、特定の資格に対して月々数千円から数万円の「資格手当」を支給しています。例えば、弊社がご紹介している求人の中には、「月額30,000円の資格手当」といった実例もあります。
資格は、あなたの努力を収入という目に見える形で報いてくれます。
どの資格から取れば良いですか?
まずは、「アーク溶接特別教育」と「ガス溶接技能講習」で安全に作業するためのスタートラインに立ちましょう。その後、実務経験を積みながら、自分の職場で最も使われている溶接方法の「溶接技能者(基本級)」に挑戦するのが王道のステップです。
この資格は、転職の際にもあなたの技術力を証明する強力な武器になります。
まとめ
溶接工の資格は、一見すると複雑で難しそうに感じるかもしれません。しかし、それはあなたのキャリアを切り拓くための、明確な「ロードマップ」そのものです。
- 資格は、未経験者にとってはキャリアのスタートを支えるものであり、経験者にとっては収入と可能性を広げる武器となる。
- 「特別教育・技能講習」→「技能者資格」→「専門級か管理者技術者など」という、着実なステップアップの道筋がある。
- 未経験者にとって重要なのは、資格取得を積極的に支援してくれる、成長意欲に応えてくれる会社を選ぶこと。
「どの資格から目指せばいいか、もっと具体的に相談したい」、「自分のスキルを活かせる、資格取得支援が手厚い会社を見つけたい」 もしあなたがそう感じているなら、専門家の力を借りるのが一番の近道です。プレックスジョブでは、業界を熟知したキャリアアドバイザーが、あなたのスキルレベルや目標に合わせた最適なキャリアプランをご提案します。
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